私は読みかけのまま本を閉じてぼおっとすることにした。 小島信夫はよくこう書いた、これはじつに素晴らしいフレーズで、こう書くと自分がその本をいまだ読み終えていないことの後ろめたさから解放される、それどころか読みかけのままにしておくことに新しく価値が生まれる気さえする、というか、気がするだけでなくこれは実際に新しい価値というか読書法だ、私は実際いままでもずうっとそうしてきた、三〇〇ページの本を読んでいるときに一〇〇ページくらいで激しく興奮したとする、……三〇〇ページ読了時に一〇〇ページのところの激しいのと同等の興奮状態にある保証もない、一〇〇ページのその時がその本のピークかもしれない、だから小島信夫はそこでいったん本を閉じてぼおっとした、ぼおっとしてあれこれ自分で空想にふけった。