群像8月号『鉄の胡蝶』60回目
(p.396) ……ハタキを手に持って、ハタキを振りながら、和式の、水洗ではない昔のドッポン便所を右から左、左から右とポンポン反復横跳びみたいなことをしながら自分の空想のヒーローがどうとかする場面を空想していた、
ここで反復横跳びなんてわかりやすい言葉を使うと子どもの空想はいっぺんに世俗化してしまう、子どもの空想は神聖で侵すべからざるものだ、小さい根津甚八は時代的には私の少年ヒーローよりずっと前のチャンバラの誰か少年剣士か忍者の誰かになって、ちょっと踏み間違うと便器の中に足を滑らせて肥壺の中に落っこちるという危険を代償にして、便器を右に左に跳んで空想に没入したのだ。私はあのときこのインタビューを読んで自分がやっていたことと同じだと思った、きっと子どもならたいていみんな一時期、そういう空想に没入するんだろう、