群像5月号『鉄の胡蝶……』
p.455 今は、「思い出したくないことだらけだ」という訴えが書くという行為の主流になっているんだろうがそれは思い出したくないなんてことはないと思っている人たちが自分には言葉がないと思い込んでいるからだ、それにもともとは何が原因か、テレビCMの影響か、アイドルが歌う歌の歌詞がそうなのか、それとも若い人が書いている文学がそうなのか。良い思い出が感傷の対象になる、良い思い出を感傷的に語ってしまう、……そうではなくて思い出したくないなんてことはない記憶をただ思い出す、誰かに語ったりツイートしたりSNSに上げる写真を捜したりするのでなく、漫然とただ思い出す。
p.457 舞台には小柄な女と大柄な男がすわっていて、そこに大柄な男がやってくるところからはじまる、やってきた方の大柄な男は金髪に染めていてロビンという、小柄な女は土井という男で大柄な男は瀬田という男らしい、彼らはかつて上演された〈脱獄計画〉についてのインタビューをロビンから受けようとしている、〈脱獄計画〉の中では瀬田と土井はドレフュースという役とヌヴェールという役をやったらしくてその演出したのは総督だったらしい、