群像11月号『鉄の胡蝶』51回目その5

私は密林で26年間ひとりで生きたアマゾン先住民の男がきちんとした生活をしていたらしいことに感銘を受けた。 彼の内面はどうなっていたのか。彼の内面にあるものは外界と区別なかった。

ある世紀に、幾世紀も続いた1日があった。(アストゥリアス〈グアテマラ伝説集〉)

伝聞を持たない言語を思う。誰かの経験は聞いたらそのまま自分の経験になる。 先住民の彼はひとりだったのか?彼が経験を持つということは、彼に経験を語った人本人になることだ。

私の祖母は文字を読まなかった。祖母はヴァージニア・ウルフより10歳年少でカフカより9歳年少。祖父はカフカと同い年だ。 祖母に空間とか時間とかいう概念を教えることはできたか?それは無理だ。 密林ではユークリッド空間は発想できない。