群像11月号『鉄の胡蝶』51回目その4

E.A.ポー、樋口一葉、メルヴィル……「不遇」と世間は言う。それは見当ハズレだ。あの人たちは常人に見えないものが見えていた。
アマゾンの奥で26年以上ひとりで生きた先住民が死んだ。

時間もまったく一様ではない、ここでは時間もまた一次元という単純な計算ではない、時間は一本の線ではなく地層のようになる、…………空間と時間を内側に複雑に折り畳んだらお釈迦さまは三次元的には人間と同じサイズでかまわない。

26年ひとりで生きるというのは途方もないことだが彼自身は密林の植物や動物の輪廻を観察したり、あるいはそれらから輪廻の記憶を聞くのに忙しくて淋しいとか退屈とかは何も………………彼には近代の私が想像するような感情とか内面とかはなく、それはまずセンサーとして外界に開かれていた。